Books だらり庵

面白かった本、訪ねた本屋さん、撮った写真なんかについてだらだら綴ります。ごゆっくり。

あなたの「撮っておきの1冊」を教えてください! ホントレート31撮目

皆さん、こんにちは。

今日もだらだらしてますか?

どうも、だらり庵 庵主のクロギタロウです。

 

「人生に寄り添う1冊を楽しむ人の様子を写真に残したい」

そんな想いと共にスタートした撮っておきの1冊「本とあなたのポートレート」、略して「ホントレート」

 

31回目となる今回は、小さなカメラと世界を旅した青年が教えてくれた1冊です。その出会いから付き合い方まで、かなり独特なお話を伺うことができた今回。こういう出会いもあるのか、そしてそれが人生の1冊になるなんて素敵だなあと思った次第です。いったいどんな「撮っておきの1冊」だったのでしょうか、早速教えてもらいましょう。

 

 

お話を伺った人

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ものさん

新潟県生まれ。東京都在住。高級コンパクトデジタルカメラGRⅢの使い手。息を呑むような素晴らしい写真は運営するブログ『ものろぐ』で見ることができる。特に初代GRと共に過ごした2018年を振り返った「君とGR、私とGR。」は必見。

mono16.com

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「やってきた」1冊。

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「やりたいと思ったことは積極的に口に出すようにしているんですが、そうやって自分の頭で考えたことを口から出して耳から聞くと、なんとなく他人の言っていることのように感じるんです。自分に強く思い込ませることで、念じたことが叶うような気がして」

新社会人とは思えない落ち着きでそう語るものさんは、大学四年生の時にも世界一周をするんだと口に出していたといいます。念願叶って世界を旅した彼のそばにいたのが、今回ご紹介いただいた小川未明小川未明童話集』です。作者の小川未明は「日本のアンデルセン」「日本児童文学の父」とも呼ばれる児童文学界の大家。

そもそもこの本は、ものさんが新潟で写真ユニットを組んでいる女の子が、ロシアに留学する際にサンクトペテルブルクに持っていたものだったそうです。彼女がサンクトペテルブルクに行っている間、ものさんはマレーシア、カンボジア、タイを周遊していました。そのお供に彼が持って行っていたのは米原万里嘘つきアーニャの真っ赤な真実』と沢木耕太郎深夜特急』ですが、この2冊とも自身で購入したものではなく、「これを世界一周のお供にしなね」と友人に手渡された本だったそうです。もうこの時点でワクワクが止まらないのは僕だけでしょうか。

各地を巡ったものさんがサンクトペテルブルクに到着した時、彼女が言いました。

「本持ってる? 持ってるなら交換しよっか」

こうしてものさんは日本からはるか遠くの異国で『小川未明童話集』と出会ったのです。寒風吹きすさぶ2017年11月のロシアでのお話でした。

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ロシアで本を交換した後、2018年の3月に日本に帰ってくるまでずっと『童話集』を読んでいたというものさん。実はこの時の1冊は相方である女の子に帰国後返却したのだそう。

「読み込んでボロボロになってしまったんですけど、これは彼女が一緒に旅をした本だからということで返しました。僕の手元から小川未明がなくなってしまったんですね」

本を返却して以降、ものさんはふとした時に旅をしていた間のことを思い出すと、何か物足りなさを感じ、「童話集読みたいなあ」と思うようになっていたといいます。

そうして彼が連絡をとったのが、新潟の「古本詩人ゆよん堂」さん。ロシアに留学していた相方さんが『小川未明童話集』を買い求めたのもこの本屋さんだったそう。

小川未明ありますか?」「あるよ」からのお買い上げ。すごいスピード感です。

「物としては同じではないけれど、同じところで買っているので、個人的には同じくらいの思い入れがあります」

余談ですが「ゆよん堂」の屋号は中原中也の詩「サーカス」に由来するそうで、『小川未明童話集』の表紙に載っているピエロとリンクして、しっくりきているのがいい感じです。

「実際怖いですけどね、この表紙。怖いですよねこの顔(表紙の真ん中の女性を指して)おばあちゃんが小学生の孫にプレゼントしても、怖いから読みたくないみたいなことになりそうです笑」

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遠く離れた日本と自分を繋ぎ止めてくれた1冊。

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返却後に買い戻してしまうほど、分かち難く『童話集』と結びついたものさんですが、ロシアで受け取ってからすぐに親しめたわけではなかったそうです。

「最初はちょっと読みづらいと思ったんです。童話なのもあって、かつちょっと古い文体で口語っぽくない言い回しもあって。それから、人格のないものに人格を付与するんですよね。お月様とか飴チョコとかに。世界観を理解するまでに時間がかかりました」

読んでみた感想から「さぞ可愛らしい人が書いているんだろうなって思って著者の写真を見たら、めっちゃ文豪感あるな笑」と思ったともいいます。気になる方は小川未明で検索してみてください。

『童話集』は、これまで出会ったことのないタイプの本だったようですが、いつしかものさんの旅において欠かせない本になっていったようです。

「ヨーロッパを回って、アメリカを回って、南米に到ったあたりで半年ぐらい。それくらい日本を離れていると日本の風景とかちょっとずつ忘れてくるんですよね。そんな時僕と同じ新潟出身の小川未明の文章を読んでみて、日本昔ばなしのような世界観を補給するというか。頭の中で海沿いてのはこんな感じかな、山の上にある神社ってのはこんなものかなというのを意識しながら読み進めていると、なんとなく日本に対する郷愁のようなものを感じていました。ああ、日本に帰りたいなあ、なんて。たった半年だったんですけどね笑」

日本語を解する人と一緒にいない日々が数ヶ月間続くという状況を僕は想像できませんが、共に旅をする相棒がいるというのは心強いものですね。著者の郷里が同じだとなおのことだと思います。ものさんと小川未明、出会うべくして出会った2人だったのかもしれませんね。

ものさんは最後に、旅の途中『童話集』と経験した忘れられない1日について話してくれました。南米のボリビアで過ごしたとある1日。

有名なウユニ塩湖を撮影するつもりだったものさんですが、その日はあいにくの雨模様。ウユニ塩湖は天気のいい日でないと綺麗に湖面のリフレクションが出ないのだそうです。雨で何もやることがなかったものさんは、お金を使って街で遊ぶのもなんだと、ジュースとチョコを買い込んでホテルのベッドへ。あぐらをかいて1日中ずーっと『童話集』を読んで過ごしたのだそうです。

日本から17,000km。遥か地球の裏側ほども遠く離れた地で、路地を叩く雨の音を聴きながら、1人静かに読書をする。なんという贅沢。何か劇的なことが起こったわけではないのに、この1日がものさんの心に刻まれているのが、本当に羨ましい。

またどこか旅に出る時には、ぜひ小川未明も連れていってあげてほしいな、そんなことを思いました。

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撮影を終えて

いつまでも旅のお話を聞いていたかったのですが、凄まじいボリュームになりそうだったので、泣く泣く大幅にカットしております。なにせ世界中を旅してきたのですから、そのエピソードの一つ一つが本当に魅力的。そんな素敵な旅に本が寄り添っていたなんて、この上なく羨ましい限りです。長い旅に出るとして、その時自分はどの1冊を選ぶだろうか、そんなことまで考えてしまいました。

僕もいつかものさんのように地球の裏側でのんびりと本を読んでみたいです。

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というわけで第31回目のホントレートはここまで。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

今後も素敵な人や本との出会いを期待して、バイバイ!

 

 

 

 

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